じんじんする日々

気をつけているつもりでも、その「つもり」が及ばないところで、じんじんは日常的に生産されてしまう

【J・キャンベル】好きなことして生きてやるっ

 

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 目次*1

テレビ企画の対談を元にした定価1,000円の文庫本なので、ジョーゼフ・キャンベルが気になっている向きにはうってつけの味見本だと思う。というか、自分がそういう向きにあり、バチコン、よくはまったのだ。

で、感動納得して読み進めたのだが、話題があちこち飛び回るということもあり、読み終わった後に何が好きだったのかを取り出せないし、何に感動したのかも満足に言葉にできない自分に気付いた。こりゃいかん、ということでブログに書くことに決めた。

初読のマーキングが赤で、再読が青ということに(だいたい)なっている。人生を深く経験せよというのも、本書のメッセージのひとつだったが、やっぱり青色マーキングのほうが味わい深いものになっているよね。我ながら感心する。もしそうでないように見えたとしても、本当は深まっているんだ。深度というのは見えにくいものなのである。勘弁ください。

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神とは、人間の生命の営みのなかでも、また宇宙内でも機能している動因としての力、ないし価値体系の擬人化です。あなた自身の肉体のさまざまな力と、自然のさまざまな力との擬人化です。神話は人間の内に潜んでいる精神的な可能性の隠喩です。そして、私たちの生命に活気を注いでいる力と全く同じものが世界の生命にも活気を与えているのです。(p.78)

この本は、キリスト、ヤハウェ、ブッダを含む「神の話」全般についての本なのだけど、ギリシアの神々もインディアンの精霊もすべてをひっくるめて「神秘の隠喩」と言い切るところがベースとなっている。180億年前のビッグバン以来膨張を続けているこの宇宙のなかで、たまたま形成された地球環境で、束の間与えられた生を生きる人間が、自分たちについて考えてきたこと。さらには、世界中あらゆるところで無名の私たちが、神というものを措定して考え続けてきたことって、一体全体どのようなものだったのか。到達できた真理なんてものはあるのか。そういう、通勤電車での往復運動や人間関係の悩み事といった日常とは次元の異なる、しかしそんなサラリーマンな瞬間にまで通底している神秘というものがメインテーマである。

 

『ウパニシャッド』のひとつにすばらしい言葉があります。「ああすばらしい、ああすばらしい、ああすばらしい、私は食べ物、私は食べ物、私は食べ物! 私は食べ物を食べる者、私は食べ物を食べる者、私は食べ物を食べる者」私たちはいま、自分たちをそんなものだとは思っていません。あくまで自己保存に固執して、自分を食べ物にしない。それは根本的に生命を否定するマイナスの行為です。流れをせき止めているのです!(p.368)

人間の究極的な到達点は「自分のなかにあるよいものの全部を、自分のためにため込むのではなく、世界のために、生きとし生けるもののために与える心境」(p.438)である。だってそれは敵を愛するキリストの境地であり、他者のために現世に留まる菩薩と同じ精神性なのだ。そのステージは自分と相手とがある意味では同じ生命を共有している」(p.435)ということを自覚することによって開かれる。「思いやり」や「慈悲の心」を持って世のため人のために奉仕する。それが一生命体としての望ましい在り方なのだ。できるか。自分の死からは次なる生が生まれるということを、その新しい生命を信じられるのか。心底できたら、それは新たな処女降誕となる。

 

いきいきとした人間が世界に生気を与える。これには疑う余地はありません。生気のない世界は荒れ野です。人々は、物事を動かしたり、制度を変えたり、指導者を選んだり、そういうことで世界を救えると考えている。ノー、違うんです!(略)必要なのは世界に生命をもたらすこと、そのためのただひとつの道は、自分自身にとっての生命のありかを見つけ、自分がいきいきすることです。(p.315)

なんだい、世のため人のためじゃないのかい! 浅くはそう考える。しかし、自分が相手、世間、神と同一であるという宇宙的視座に立てば、まず何より、偶然に与えられている手持ちの身体をいきいきさせることが先決ということもよく理解できるだろう。いきいきするために何をすべきか。まわりの連中の意見ばかり聞くのをやめて、自分の心の声を聞くことだ。言い替えれば、自分で個人的な選択をするということ。自らの覚悟があれば、人は地獄の苦しみすら喜ぶことができるのだ。問題は、それに耐えてやっていけるかどうか。心配が大きいようなら、英雄伝説にあたるといい。生の喜びを取り戻すには死の恐怖の克服が必要だということを、英雄の勇姿から学ぶだろう。

「成りつつある生は、常に死の恐怖を脱ぎ捨てつつ、死の直前にある」(p.322)

*1:

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

編集者からのごあいさつ

まえがき

第一章 神話と現代の世界

第二章 内面への旅

第三章 最初のストーリーテラーたち

第四章 犠牲と至福

第五章 英雄の冒険

第六章 女神からの贈り物

第七章 愛と結婚の物語

第八章 永遠性の仮面

訳者あとがき