(夫に向かって)「ちょっと耳をふさいでおいて」
夏休み。久しぶりの親戚が一堂に集まっての団欒タイム。夕食を終え、子供たちは遊びに部屋へ戻り、大人たちはそれぞれビールやワインを二、三杯ずつ飲んだところ。ダイニングテーブルに時計回りで、父、長男妻、母、長男、次女夫、次女と並んで座っている。
話題は、具合いが悪くて会合に顔を出せなかった長女の結婚事情へ。彼女は、夫が浮気をしたため、長いこと事実上の離婚状態にあるのだが(夫には現在も同じか違うかわからない年若い彼女がいる)、子供の親権の問題などがあり、正式には別れないまま、家のあちらとこちら、同じ敷地内で半共同生活を続けている。
全員が彼女は別れるべきだ、ということで意見を一致させている。彼女の「元」夫がどれだけ気に食わない奴だったか、食えない奴だったか、という話で盛り上がる。それでも別れずにいる長女、という話の堂々巡りをもう五、六回は繰り返している。
彼女はこれまでひとりで暮らした経験がないから、離婚後にひとりになるのを恐れているのじゃないか、と両親。
長女は16歳で男と一緒になるために家を出て、その後は実家に戻ってくることなく、連続的に現在の離婚状態の夫と知り合って結婚しているから、今さら、家の中でまったくひとりになるというのが受け入れられないんじゃないのか。
次女(夫に向かって)「ちょっと耳をふさいでおいて」
次女夫「なに、なに?」
次女(両親に向かって)「私はね、18歳で実家を離れたとき、すっごい嬉しかったよ。やっとひとりになれたーっていう開放感があって」
シーーン。
次女夫「おいおい。君はご両親の耳をふせぐべきだったね」
次女「いや、ひとりで住むっていうのが私にとってはポジティブなことだったから」
次女夫「でも、俺からしたら、ひとりで住むというパラダイスを捨ててまで一緒に住む決断をしてくれたわけだから、いいことなんだよ。でも、ご両親からしたら…」
父「それまで一緒に住んでいた人が『やっとひとりになれたー』だってね。ガハハハハ!!!」