群青とオレンジのアメリカンロビン
今年のサンクスギビングはこぢんまりとしたものだった。
家族だけで食卓を囲んで、友人を招いた年の思い出話をしたりした。
昼過ぎにはターキーとビールでお腹いっぱい。
膨れ上がったお腹をどう置いても落ち着かず、さてどうしたものかといって、ふらふらとベランダに彷徨いでた。
ここ数日は季節外れの暖かさが戻ってきていて、今日も家の中では11月下旬らしからぬ気温になっていたのだけど、外は意外と風が鋭かった。
空気はしっかり秋の暮れらしかった。
そんなことを思っていると、向かいの電線につと一羽の鳥がやってきた。
群青とオレンジのアメリカンロビンである。
カラフルで主張の強いアメリカ的なスズメであるらしい。サイズもふたまわりくらいでかい。
一羽で来て、怯える様子もなく、じっとこちらを見てくる。
なんだい、エサでももらえると思ってるんか。
なんて心の中でつぶやいていると、
「おい、お前。やりたいことをやるんだぞ」
急に、そんなメッセージを飛ばしてきた。
「わかってるんだろうな。やりたいことをやるんだぞ」
ちょうど、「前の仕事では、仕事を極めることは、自分と切り離されたロジックで稼働する別人格を自分の中に育てていくことであった」などと考えていたところだった。
会社(いや、顧客)の考え方、ポリシーをよく理解して、外側の事象を格付けしていく。
そこで良しとされている事象は、俺個人でも本当に良しとしてしかるべきことなんだろうか。
私はそれに続く、「いや、そうではあるまい」という心の声が次第に大きくなっていくのを邪魔臭く思っていた。
まぁ、それくらいの意識の乖離は、現代社会では当たり前のこと。
俺だってそのくらい飼い慣らせる。
そういってがんばっていたのだけど、その仕事から離れて今俺は、その論理を脱ぎ捨てたままでいられることを快く思っている。
結局、それが本音みたいだ。
「おい、お前。ちゃんと約束しろ。やりたいことをやるんだって」
はいはい。やりたいことをやるよ。せっかくの、一度きりの人生なんだから。
「そうじゃない。ちゃんと誓え。本気でやるって」
ロビンの目蓋の縦線に、クッと力が入ったように見えた。
はい。やります。
本気でやります。自分の好きな思考を炸裂させられるように、白紙のスペースに向き合っていきます。
人生も、最近はまじめに取り組んできたつもりだったんだけど、思うようにはうまくいかないので、もう、好き勝手やろうかなと。
狂人のようにやってやろうじゃないかと。
なんてお前、そんな度胸もねぇだろ?
と、鳥でなくても訝る気持ちも当然わかる。
でも、そんなに気負ってやろうという話でもない。
ただ、社会規範を恐れずに、自分勝手なロジックでぶんまわしてみたいってだけ。
そういうことをやっていきます。
決心を伝えたので、ロビンにくるりと背を向け家の中に戻ろうとすると、エサをもらえないのが確定したからか、群青オレンジもちょうど次の空へと飛び立っていった。
アメリカのサンクスギビングは、日本の正月みたいな雰囲気がある。
なんだかちょうど、新しい年の決心をしたような気分になった。