飛んで帰りたい
「ブログ始めたんだ」と友人が言う。
「へぇ、すごいじゃん」と俺。
「読ませてよ」という言葉も思いつくのだけど、そこまでのお世辞は言えない。そんな信用は置いてない。
代わりに「いつからやってんの?」と聞いた。
「おとといから」
「なんだ。本当に始めたてじゃん」
「そうだよ。昨日は書かなかったし」
「そうか。じゃあまだひとつの点だね」
この話、「読む」という選択肢を取りたくない俺には、ただコートの真ん中にボールを返すというだけの気のないラリーを続けていくよりほかに対処のしようがない。
「どんなこと書いたの?おとといのブログ」
「日常のことだよ。ドライブスルーでハンバーガー注文できて嬉しかったとか」
「ははは。ほのぼの系だね」
「うん」
少しの沈黙。
「本当はね。子供が嫌いだってことを書いたんだ」
「おお、だいぶ毛色が違う」
「ひいたでしょ?」
「うん、ちょっとひくかな」
意味をつけすぎないように、淡々とした調子で言った。
「子供全体が嫌いなんじゃなくて、近所の子供ことなんだけどね」
「うん」
「その子も、なにか嫌がらせをしてきたとかじゃないんだけど、なんていうか、助けてくれなきゃイヤイヤイヤンという態度が生理的に嫌いな感じ」
「なるほど」
「それで、自分が子供を全般的に嫌いなのかどうか考えてみたくて書いたんだ」
「ちょっと、読みたくなってきたな。怖いもの見たさで」
「でも読まない方がいいと思うよ」
「分析結果が悲惨だった?」
「どうだろう。ただ、全部正直に書いちゃったから」
「結論は出たの?子供が嫌いなのかどうか」
「ひとまずの結論は出たかな」
「どうだった?」
「結論はつまらないものだよ」
友人はここでマスクを外して、
「人による、っていうだけ」と言った。
「まっとうだね」
と平静を装って返答したけど、友人の顔がいつのまにか鳥のようになっていたので、内心とてもビビっていた。
口元にツヤツヤなものが突き上がっている。
木材で作った彫刻のようにも見える。それは短いが鋭い。
どうやって話を切り上げて、この場から立ち去ろうか。俺はそればかりを考えるのだった。