じんじんする日々

気をつけているつもりでも、その「つもり」が及ばないところで、じんじんは日常的に生産されてしまう

仮題「領事館」・書き足し

うまくいかなかったけど、ともかく少し書き足しました。

案内人の設定を変えるところに可能性があるのと、女性職員との会話が肝になっていくでしょう。

ひとまずもっと、自分が楽しめるほうへ持っていけたらと考えています。

 

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「もしかして、領事館をお探しですか?」

 パスポートの更新のために、久しぶりに街の中心部まで出てきたら、見事に道に迷ってしまった。領事館の住所を確認しようと検索してみたが、ネットがなかなか繋がらず、ウロウロウロウロうろたえていたところ、見知らぬ男に声をかけられた。

「そうなんです。たしか、この辺だったと思ったんですけど……」

 記憶とマッチしない風景を見回しながら返答し、男のほうに視線を向けた。

 日本語を流暢に喋る、背の低いアジア人だ。髪は横分けで大きめのメガネを掛けている。小ぎれいにしているが、茶色いジャケットは古びていて積年の匂いが染み込んでいそうに見える。あまり偏見は持ちたくないんだが、胡散臭さが拭えない。

「領事館は、最近移動したんですよ。ほら、この辺は土地開発が盛んだから」

 その言葉どおり、あたり一帯は、二年前と同じように、あちこちで大掛かりな工事が進められていた。いつ弾けるともわからないバブル景気の中、新興企業が自分たちの現在価値を誇示しようと、競い合うように風変わりなビルを建てている。

「ちょっと向こうになりますよ」

 男はそれが自分の仕事であるとでも言わんばかりに、隙のない流れで移転先までの道案内を買ってでた。私は、見知らぬおじさんと街を散歩する趣味はないので、とても断りたかったのだが、領事館に行く必要はあるし、彼の親切を断るということが、彼の文化においてどれほどの失礼にあたるのか計り知れなかったので、「わざわざ、そんなことまでしていただいて、すいませんね。ありがとうございます」とお礼を多めに言いながら、彼の道案内を受け入れることにした。

 新しい領事館までは、想像以上に遠かった。こんなに歩くなら、バスかタクシーを使いたかった。途中で「あとどれくらい歩くんですか?」などと質問もしたのだが、親切おじさんは不器用で、歩き出すとあまり喋らなくなるみたいだった。横断歩道で信号待ちをしているときに、「なに、もうあと数ブロックですよ」と言ってから、さらに20ブロックほど歩かされた。計算も得意じゃないみたいだ。

 その日は暑くも寒くもない一日だった。私は白いティーシャツの上に紺色のジャケットを羽織っていた。20分近く歩いて日陰になったところで、シャツの下でじわっと汗が滲み出てくるのが感じられた。ジャケットを脱いで腕に掛けると、いい風が吹いた。気持ちいい。もっと早くそうしていればよかったな。

 そうこうしていると、新しい領事館に到着した。いや、その移転先はまったく新しくなかった。開発競争の激しい市内では、有数の古さを誇るビルだろうと思われた。

「ここ、ですか?」

「はい。こちらの6階です」

 ロビー周辺には、日本領事館が入っていることを示す看板らしきものは見当たらなかった。

「エレベーターは奥にあります。では、私はここで」

「あ、ありがとうございました」

 エレベーターのほうを目で探っていたら、気付いたときにはもう男の姿は見えなくなっていた。お礼の言葉は届いただろうか。

 

    *   *   *

 

 古ぼけたエレベーターで6階に上がると、領事館は目の前にあった。扉が開いていたので、「日本国総領事館」と書かれた立派なプレートの脇を通って迷うことなく入っていったが、同じ階には他にもいくつか部屋があるようでもあった。

 入り口には、番号札の発券機がふたつ並べられており、私はパスポート関連のほうの番号札をとって窓口に向かって並べられている椅子に座った。番号は83番だった。タイミングがよかったのか、待合スペースはガランとしている。すぐに呼ばれるだろうと思ったが、手持ち無沙汰なのでケータイを引っ張り出し、無料Wifiがないかどうか確認してみた。「Consulate-General of Japan」という仰々しい名前のWifiは見つけられたが、一般には解放されておらず、利用できなかった。

 窓口は三つ開いていて、ひとつは日本へ行く非日本人のための窓口で、残りのふたつが日本人のための窓口という割り振りになっていた。私より後からやってきた白人の決してガラのいいとは言えない男性が、私より先に窓口にたどり着いたということがあって、そのシステムに気が付いた。別に急ぐ理由もないくせに、心が狭い。

 外国人用の窓口は年のいった男性職員が対応し、日本人用の窓口は複数の女性職員が交代で対応しているようだった。その何人かいる女性職員のうちの一人が、そういう場所では珍しく年の若い人で、せっかくだったらこの人に担当してもらいたいという下心を働かせてバレないように見ていたら、どうも以前、何かの飲み会で声をかけたことがある女性であることにハッと気付いた。そうか、そういえば、領事館の現地職員として働いているということを言っていたっけ。そのときは、私はホロ酔い気分でなんとなく好意を寄せはじめていたのだけど、相手がつっけんどんで、まったく相手にしてもらえなかったような記憶がある。向こうが覚えているかどうかわからないが、なんとなく気まずい。担当、してもらわなくてかまいません。

 三、四人はいたと思った女性職員が、気がつけば二人体制になっていた。飲み会で出会ったことのある女性か、50代ぐらいの少し年配の女性か。